ご近所散策37 -網走監獄-
少し前のことになりますが、8月の中旬に網走を訪れました。
北海道と聞くと広大な自然や涼やかな空気を思い浮かべますが、今回の目的は少し異なります。
行き先は「網走監獄博物館」。明治時代の厳しい歴史を今に伝える場所です。

当日は、真夏の太陽が容赦なく照りつけていました。
しかし、木々の影を抜ける風は心地よく、空気にはどこか透明感がありました。
そんな中で見えてきたのが、重厚な赤レンガ造りの門。
そこをくぐった瞬間、時代の扉をひとつ開けたような気がしました。

中に入ると、当時の囚人たちの生活や労働の様子が再現されています。
木造の舎房は放射状に配置され、中央から見渡せるようになっていて、まるで蜘蛛の巣のよう。
看守が全方向を一望できるように作られているのだそうです。
その合理性には感心しつつも、どこか張り詰めた空気を感じました。

展示室には、厳しい寒さの中で働く囚人たちの姿が人形で再現されています。
表情や衣服の質感がリアルで、思わず息をのんでしまうほど。
北海道の開拓がこのような労働によって支えられていたことを思うと、胸の奥が少し重くなります。
一方で、外に出ると視界がぱっと開けます。
澄んだ空、揺れる草木、遠くに見える山々。
この自然が、厳しい歴史を少しだけやさしく包みこんでいるようでした。

見学の途中、ふとベンチに腰を下ろして風を感じていると、
「人はどんな環境でも、少しずつ前を向いて生きてきたのだな」と思いました。
それは今を生きる私たちにも通じる感覚かもしれません。
帰り際、売店で買った網走監獄限定のアイスがとても美味しかったです。
重たいテーマの後のひと口が、妙に沁みました。
かつての苦しみや努力を、ただ「過去のこと」として見るのではなく、
そこに宿る人の強さを感じ取る場所。
網走監獄は、そんな不思議な静けさを持つ場所でした。
額装の㈱アート・コアマエダ(スタッフ石部)
